松島屋ないまぜ帖
2021.08.15
二等兵会
父は
片岡市蔵を襲名したばかりの
二十歳の時
徴兵検査を受けた。
結果は甲種合格。
身長167センチ
体重60キロ、
大正生まれとしては
立派な体格だったろう。
千葉県国府台の連隊に
入隊する時のことを
母から聞いた。
松竹の重役だった祖父の
高級車で送ってもらい
上官から目をつけられる羽目に。
男子厨房に入らずの時代、
炊事当番が上手くこなせず
コテンパンに殴られて
顔が別人のようになったそうだ。
ノモンハンにも召集されたが
戦時中の話は
直接聞いたことが無い。
ただ酒を飲む時は
決まりがあった。
「酒は残すな。
一緒に飲むのは
最後かもしれないと思え」
と教えられた。
当時、兵隊の経験がある役者うちで
「二等兵会」というのがあり
二代目松緑のおじさんを中心に
羽左衛門のおじさん
先代雀右衛門のおじさん
そして父も、と
人づてに聞いた。
兵長になったのは父だけで
戦地で部下の命を預かる重圧は
想像を絶する。
終戦から76年目。
父はあの世で
仲間と酒を酌み交わしているだろうか。